- 2025.11.23
『海になりたかったシーグラス』
『海になりたかったシーグラス』 シーグラスは、 海に憧れていた。 命を傷つけることなく、 すべてを包み込む、 あの広くて深いやさしさに。 だから、 角を落とし、 波に削られ、 丸くなった。 痛みも、記憶も、 すこしずつ手放して、 ただ、やさしくなろうとした。 それでも—— 海にはなれなかった。 海はそれを知っていた。 […]
『海になりたかったシーグラス』 シーグラスは、 海に憧れていた。 命を傷つけることなく、 すべてを包み込む、 あの広くて深いやさしさに。 だから、 角を落とし、 波に削られ、 丸くなった。 痛みも、記憶も、 すこしずつ手放して、 ただ、やさしくなろうとした。 それでも—— 海にはなれなかった。 海はそれを知っていた。 […]
『落ち葉の贈りもの』 枝先で、 風に揺れながら、 ひとひらの葉が、 静かに手放される。 それは、 木々が感じた歓びの記憶。 春の光、 夏の雨、 鳥の影、 風の温度。 そのすべてが、 葉のかたちに染み込んでいた。 語るためではない。 ただ、 伝えたくて。 その美しさを、 誰かに触れてほしくて。 葉は落ちる。 音もなく、 […]
『あふれる』 長い眠りのあと、 蝉は地上に出る。 土の重みを抜け、 光に包まれ、 風に撫でられながら、 世界の輪郭に初めて触れる。 葉の柔らかさ、 空の広がり、 雲の影がゆっくりと流れていく。 それらすべてが、 蝉の中に静かに、しかし確かに、 歓びとして満ちていく。 声が出る。 誰かに向けたものではない。 伝えようとする意志すらなく、 […]
美しき器 風が運ぶ香りは 媚薬のようで 触れる肌の温度で 胸は高鳴る 何気なく呼ぶその声は 構成する細胞を甘く震わす その笑顔は陽だまりのようで 見るたびに視界が開き輝き その瞬間が永遠に続くようにと 静かに願う
薫る風 眼下に広がる起伏 それを覆う草原 眩しい日差しは 地表を焼き 湿度を運ぶ海風が そっと傷を撫でる 草原は 自分を包む 厳しさと優しさに 焦げたようでいて清らかな 薫りで応える 山肌に潜むものたちは 空気に満ちた その生命の痕跡を 密かに愉しむ
地の雨 雨は空を舞い、地に落ちる 雨は静かに地に抱かれる 染み込んだ雨は地の底に降る 誰にも見られず でも確かに地の空を舞う その雨は 地の底を潤し、地の川となり、 底にある見えぬ荘厳な赤い熱を眺め いつしかまた青空を仰ぐ また地を旅したくなると 雨は姿を消して空を舞う
雨の声 雨が降る そのノイズは冷たい 雨が降る その音に聞き入ると声がする その声は人の声ではない何か 聞き取れないその声は 何かを伝えようと囁く 太陽のきらめき 水の湿り気 風のにおい 歓びを見いだしたものたちの 過去の声が重なる 姿はなくとも 空間に染み込んだ暖かな声の雨
幻想 ガラスに映るシルエット はっきりとは見えずとも 心が弾む そっと風に揺れるその影に 心は安寧を刻む においはせずとも 心は甘く酔う 触れたくてもそこにはいない 影の奥の幻想