『ひとひらの残光』

『ひとひらの残光』

『ひとひらの残光』

 

彼は、何も持たずにそこへ来た。

名もなく、記憶もなく、

ただ、何かに触れたかった。

 

風が吹いていた。

その風は、彼の頬をかすめ、

胸の奥に、知らない感情の輪郭を描いた。

 

目の前にあったのは、

ひとひらの光。

それは花でもなく、星でもなく、

ただ、そこに浮かんでいた。

 

彼は手を伸ばした。

触れたかどうかは、わからない。

けれどその瞬間、

世界が、ほんの少しだけ震えた。

 

光は彼の指先に溶け、

皮膚の下に沈んでいった。

それは記憶にならなかった。

けれど、彼の存在そのものが、少しだけ変わった。

 

夜になって、彼は目を閉じた。

何も思い出せないまま、

ただ、胸の奥で

光が静かに脈打っていた。

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