『無彩の国』
そこには音がない。
風は吹いても、葉は揺れても、
何も響かない。
ただ、動きだけが残る。
色もない。
空も、地も、影も、
すべてが同じ濃淡の中に沈んでいる。
けれど、それは無ではない。
むしろ、すべてが在るからこそ、
色は必要とされない。
誰かの影が、
誰かの気配が、
誰かの記憶が、
静かに重なっていく。
そこでは、
誰もが等しく、
誰でもない存在になれる。
名前も、役割も、
過去も、未来も、
すべてがほどけて、
ただ「今」の中に溶けていく。
それは、
孤独ではない。
むしろ、
最も深い共鳴。
声がないからこそ、
沈黙が語る。
色がないからこそ、
気配が染みる。
そして、
その世界では、
誰もが赦されている。
存在することだけで、
十分に美しいと。