『空の輪郭に触れた煙』
工場の屋根から、
細く、静かな煙が立ちのぼっていた。
誰もそれを見ていない。
空は広く、雲は遠く、
煙はただ、そこにある空気の一部のようだった。
煙は、風に流されることもなく、
空に吸い込まれることもなく、
ただ、空の輪郭に沿って漂っていた。
それは、
空が煙を拒まなかったからでも、
煙が空に憧れたからでもない。
ただ、互いに気づかずに、
同じ場所にいたというだけ。
午後の光が傾くと、
煙の色が少しだけ変わる。
灰色から、青へ。
青から、ほとんど見えない透明へ。
それは、空が煙に触れたのではなく、
煙が空の色を思い出しただけ。
そして、ある瞬間、
煙は空の中に沈んでいった。
消えたのではない。
ただ、見えなくなっただけ。
そのあと、空には何も残らない。
でも、屋根の上に残った熱だけが、
煙がそこにいたことを、
静かに語っていた。