『海になりたかったシーグラス』
シーグラスは、
海に憧れていた。
命を傷つけることなく、
すべてを包み込む、
あの広くて深いやさしさに。
だから、
角を落とし、
波に削られ、
丸くなった。
痛みも、記憶も、
すこしずつ手放して、
ただ、やさしくなろうとした。
それでも——
海にはなれなかった。
海はそれを知っていた。
その静かな努力も、
届かなかった願いも、
すべて、
波の奥で感じていた。
だから、
ある日、
海はそのシーグラスを、
そっと岸辺へ運んだ。
そこには、
同じように海を夢見て、
なれなかった石たちが並んでいた。
誰も語らない。
誰も責めない。
ただ、並んでいる。
その並びは、
やさしさのかたちだった。
なれなかったものたちが、
それでもやさしくなろうとした痕跡。